海神稲荷神社
2018-10-14



街は賑わった
ネオンは永遠に消えることがなく
酩酊と興奮に塗れた男共が
鼠の様に街路に溢れる

街灯の柱に凭れる男
燐寸の匂いにふと我に帰る
見上げると巨大な楼閣
まだ新しい木造の格子に
女の白い顔を見た

昭和3年
街道沿いに点在していた遊女屋を集約して
船橋の海神新地はオープンした
東京から遠征してくるほどの賑わいだったらしい
娼妓は何故か
山形県出身者が多かったという

空襲で焼けることもなく
近年まで妓楼の建物が残っていたらしいが
訪れたその地には
真新しいマンションが並んでいるだけだった

戦後
遊廓は赤線へと移行したが
それも束の間
今ではストリップ劇場も撤去され
ただの住宅街へと街は変貌していく
ひび割れたアスファルトの先に
子供用の自転車が停まる家々の中に
外壁を緑色に塗ったソープランドが現れる
たった1軒だけが取り残された姿は
異様で悲しい

意図されたものなのだろうか
妓楼の撤去された跡に
一本だけ当時の街灯と思われる柱が残っている
粗骨材を露出する風化したその柱は
それでもいつでも証言台に立ってやるさと
堂々とした風采で屹立している
赤黒く錆びて盛り上がった金属の枠材は
まるで老婆の女陰の様に
ぱっくりと口を開けて誰かを待っている

コンクリートやアスファルトでは
きっと此奴らを埋めきれない
土地が記憶している
男の孤独も
女の悲しみも
情念も怨恨も狡猾も狂気も
流した汗も涙も体液も
全部
染み込んで拭えやしない

恐らくは
遊廓の末端あるいは外側であった場所に
海神稲荷神社がある
境内で若いお母さんが小さな女の子を遊ばせている
遊女が娼妓がここをお参りしたかなんて
もう誰にもわかりゃしない

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海神稲荷神社
千葉県船橋市海神1-22
[稲荷]
[遊郭跡]
[千葉]

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